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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)6513号 判決

原告 株式会社北村製作所

被告 日本チユーナー株式会社

主文

被告は、原告に対して金四十万八千五百円及びこれに対する昭和三十三年一月六日から右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、五分してその四を被告の、その一を原告の負担とする。

この判決は、原告において金十五万円の担保を供するときは、原告の勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対して金五十六万千六百八十七円及びこれに対する昭和三十三年一月六日から右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「一、原告は、金属プレス加工等を、被告は、ラジオ部品製造等をそれぞれ業とする商人である。

二、原告は、被告に対して昭和三十二年十二月二日角型コアーツナギ十万二千百二十五本を単価金五円五十銭、代金支払時期昭和三十三年一月五日の約で売渡した。

三、よつて、原告は、被告に対して右代金五十六万千六百八十七円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和三十三年一月六日から右完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるために本訴に及んだ次第である。」

と述べ、被告主張の事実に対して、

「四、被告主張の二、の事実は認める。

五、被告主張の三、の事実は認める。ただし、中間の納期が当初の契約と相違することについては、被告は承諾を与えていたものである。

昭和三十二年六月二十九日、原告は、被告から角型コアーツナギ十万本の注文を受けたが、被告は、金属プレス加工についての知識に乏しいため、その設計自体が材料の強度を無視した無理なものであつた。すなわち、右注文品は、その頭部は〇・五ミリの厚さの真鍮板を折り曲げて作成し、その底部中央に直径二ミリの丸穴をあけ、ここに同寸法の軸頭部を挿入し、カシめて固定する方式の設計であるところ、右設計どおりに加工すれば、右固定部分は強く指先でひねつた程度でも回転するようになることは明らかであつたので、原告は、直ちに被告に対してこの旨注意し、固定箇所の強度を増加するため右丸孔を多角形とするなり或いは孔の周囲に二ケ所位の切り込をつけることをすすめ、なおこのように加工するに要する加工賃は原告方製品の品質保持の見地から原告において負担してもよい旨申し入れたところ、被告は、大して強い力のかかる部品ではないから、一応固定できれば十分であるといつて、右原告の申入を断つた。そこで、原告は、被告の設計どおりの製品を作つて納入を始めたところ、被告は、前言に反して、検品の都度固定部分の強度を要求し、殊に、昭和三十二年七月十五日に二百二本を納入したときには、固定箇所の加工方法を工夫してみてくれとの理由で一たんこれを返品するの挙に出たので、原告は、無理な注文とは思つたが、技術的な良心からカシメ方について工夫を重ねつつ試作的に少量ずつ納品を続け、昭和三十二年八月十三日に至り、原告としても一応満足すべき製品が完成したので、同日被告方に製品を提示したところ、被告も喜んでこれなら文句はないから急いで残りを作つてくれとの返事であつたので、原告は、同月末日までには完納することを約し、ここに始めて量産に入り、最終期限たる八月末日に二日の余裕を残して同月二十九日までに全数量の納品を了した。したがつて、その中間の納品数については当初の注文とは多少異るところはあつたが、この点に関しては右の経過を通じて被告も了承していたものである。

六、被告主張の四、及び五の事実は否認する。

七、被告主張の六、の事実中、昭和三十二年十月九日弁護士佐藤成雄を立会人として被告主張のような契約が成立したことは認めるが、その余の事実は否認する。

原告は、前記のように注文どおり十万本の納品を終つたので、被告から検品の結果について何等の苦情もなく、安心して代金の支払を待つていたところ、被告は、頭初、納入品については毎月二十日締切の上、当日までに納入された分に対し翌月五日に代金支払をする約束であつたにもかかわらず九月五日になつてもこれを履行しないので、原告は、九月十一日に被告方に代金請求に赴いたところ、被告は、納期が中間で遅れたことに対する責任として単価を四円に値下すれば直ちに支払うというので、原告は、直ちに支払を受けることを条件に単価を四円に値下げしたが、その翌日代金受領に赴いても被告はこれを履行しなかつたので、右値下の取極は無効となつた。

被告は、その後も一向に代金を支払う気配を見せないので、原告は、昭和三十二年十月九日に弁護士佐藤成雄を同道して被告方に赴き代金の請求をしたところ、ここにおいて初めて被告は、原告納入の製品が不良である旨を言い出し、不良品修正をしない限り代金の支払をしないと主張し出した。原告は、その製品に対する職業的名誉心から、これを受け入れて、原被告間に被告主張の契約を締結するに至つたが、右契約は、返品、不良品修理、再納入、代金支払等の履行方法について規定したものであつて、結局、昭和三十二年六月二十九日附注文による契約の履行方法の中間修正に過ぎず、別個独立の契約をなすものではないのみならず、同契約は、履行されないままさらに別の履行方法に移行したので、その効力は自然消滅の形になつている。

八、被告主張の七、の事実中、昭和三十二年十一月五日、原告が角型コアーツナギ三万百二十五本を納入したこと、同月九日、訴外加藤好吉に対して被告主張のような検査結果の通知及び不良品修正の上同月十二日までに納品すべき旨の通知があつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

原告は、前記十万本全部について念入りにカシメ直し等の手直しを加えたが、十一月五日にそのうちの三万百二十五本を納入したところ、被告から十万本全部の納入がなければ検品しないといわれたので、十一月九日に七万二百本を納入したところ、同日検査結果とともに、三日以内に不良品再修正の上納入すべき旨を告げられた。およそ、十万本の製品といえば、単に数量を検するだけでも優に二日は必要とするので三日以内の再修理は困難であるところから、原告はこの旨被告に申し入れたが被告の了解するところでなく、無理を承知で製品を持帰つた。

九、被告主張の八、の事実中、被告主張のような納品をしたこと、検査結果の通知があつたこと、不良修正の上納品すべき旨の通知があつたこと、返品を受けたことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

十、被告主張の九、の事実中、原告が昭和三十二年十一月二十五日までに納品しなかつたこと、同年十二月二日に加藤の添書をつけて十万二千百二十五本を納入したことは認めるが、その余の事実は否認する。

十一、被告主張の十、の事実は否認する。

およそ、商人間の売買においては、買主たるものは目的物受領後遅滞なく検査を行い、若しかしがあれば直ちに売主に通知する義務があることは当然であつて(商法第五百二十六条)、被告の一方的な検査が終るまでは納入にならないというが如き非常識な特約をする理由がない。」

と述べ、

立証として甲第一号証、第二号証を提出し、証人加藤好吉、同新井富治郎の各証言及び原告代表者北村直吉本人尋問の結果を援用し、乙第一号証の一、二、第二号証の一から十二まで、第五号証、第六号証の一から四まで、第七号証の一から三まで、第八号証、第九号証の各成立を認め、乙第三号証の一、二、第四号証の一から三までの各成立について不知と述べた。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁及び主張として、

「一、原告主張の請求原因事実一、は認めるが二、は否認する。

二、被告は、昭和三十二年六月二十九日、原告に対して角型コアーツナギ十万本を単価金五円五十銭で注文したが、その納期は、同年七月六日千本以上、同月十五日五千本以上、同月三十一日二万本以上、残余は同年八月中に完納する約束であつた。

三、ところが、原告は、被告に対して、右約束に反し同年七月十一日三百八本、同月二十八日五百十一本、同月三十一日九百本、同年八月二日五百五十本、同月六日八百本、同月九日千六百本、同月十二日千七百本、同月十五日八百本、同月二十日四万千七百二十五本、同月二十二日一万五千本、同月二十五日二万六百八十五本、同月二十九日一万五千四百三十一本、計十万十本の角型コアーツナギを納入した。

四、原告の被告に対する右物件の納品状況がこのような状況であつたため、被告は、同年七月中旬頃原告に対し納入時期を遵守されたい旨電話で催告し、さらに同月二十日頃重ねて文書で同趣旨の催告をするとともに万一約束に反する場合は、契約を解除する旨通知した。

ところが、原告は、被告の右通知にもかかわらず前記のように納入時期を遵守しないのみならず、納入品には不良品が多く、かつ、被告の右通知に対し何等の応答をしないので、被告は、得意先の困却が一通りでないためやむなく同年八月初旬頃他にコアーツナギの手配をしたが、原告においては、その後も右約束を実行しないので同年八月二十日文書で原告に対して右契約を解除する旨通知し、その頃右通知は原告に到達し、右契約は解除された。

五、それにもかかわらず、原告は、契約解除後も、前記のように勝手にコアーツナギを被告に送付して来たが、右物件中には、相変らず不良品が沢山混入されてあつて到底そのままでは使用することができないものであつた。

六、ところが、その後、原告は、被告に対して右物件の納入方を懇請してきたので、被告は、やむなく原告との間に弁護士佐藤成雄を立会人として、昭和三十二年十月九日、次のような契約を締結した。

(一) 原告は、昭和三十二年七月十一日から同年八月二十九日までの間に被告に納入したコアーツナギ十万本を一たん返品を受け、不良品の修理を行うこと

(二) 原告は、右品を昭和三十二年十一月十日までに再納入すること

(三) 被告は、再納入に係る品を同年十一月二十日までに検品し合格した場合には、同年十二月五日に満期昭和三十三年十月末日、金額四十万円の約束手形で原告に支払うこと

右契約に基き、その頃被告は、その保管に係る前記物件を原告に返還した。

原告は、コアーツナギの代金は単価五円五十銭であると主張するが、右単価は、二、に記載の契約で定められたものであつて、その後右契約は解除され、さらに昭和三十二年十月九日の前記契約で単価四円と定められたのである。そうして、原告が昭和三十二年十二月二日売渡したと主張するコアーツナギは、本項記載の契約に基き原告から被告に送付して来たものである。

七、その後、原告は、右契約にもかかわらず同年十一月五日コアーツナギ三万百二十五本を被告に納入したに過ぎず、しかもその納入された物件は、同月九日被告において原告会社社員加藤好吉立会の上、六十本について抜取検査した結果は、カシメ不良一、曲り特に大なるもの六、曲り使用不能七、ハサミ方不足七、寸法大一、密着不良一、不良計二十三、不良率約四十パーセントで使用に堪えないことが判明したので、右加藤に対して不良修正の上同月十二日までに納品すべき旨伝えた。

八、次いで、原告は、被告に対して同月十二日コアーツナギ三万六百本、さらに同月十八日同六万六千百二十五本を納入したので、同月二十日、被告において前記加藤立会の上、右物件中百本について抜取検査をした結果は、カシメガタ四、カシメ曲り二十、密着不良二十六、不良計四十九、不良率四十九パーセントで前同様使用に堪えないことが判明したので、右加藤に対して不良品修正の上、同月二十五日正午までに納品すべき旨伝え、それまでに納入された物件全部を原告に返却した。

九、このように、被告は、原告に六、に記載の契約の履行期を同年十一月二十五日正午まで猶予したのにかかわらず、原告は、遂に右履行をしなかつた。そうして、同年十二月二日に至つて、原告は、被告に対して勝手に右加藤の添書をつけてコアーツナギ十万二千百二十五本を送付してきたが、被告において直ちに右物件を検査したところ、依然として八、に記載と同様の結果であつて、約束の納期より遅れているのみならず、検査に合格しなかつたので、直ちに原告に対して本件契約を解除するとともに、右物件の引取方を通知したが、原告からは何らの応答がないので、右物件を何時でも引渡せるように保管しているに過ぎない。

十、かりにそうでないとしても、原告が最後に送付して来たコアーツナギを検査したところ、依然として不良品が多く使用に堪えなかつたので直ちにその旨原告に通知したのであるが、原被告間における本件売買契約においては、被告において当該物の検査をなして合格したとき始めて完全なる商品の納入とするということが特約となつているので、右物件の送付は、商品の納入とみることはできない。したがつて、被告は、原告に対する代金支払義務はまだ生じていない。

よつて、以上いずれの理由からしても原告の本訴請求は失当である。」

と述べ、立証として乙第一号証の一、二、第二号証の一から十二まで、第三号証の一、二、第四号証の一から三まで、第五号証、第六号証の一から四まで、第七号証の一から三まで、第八号証、第九号証を提出し、証人田代陽一、同佐藤鶴次郎の各証言及び被告代表者大橋環本人尋問の結果を援用し、甲号証全部の成立を認めた。

理由

一、第一次契約の成立とその履行状況

原告が金属プレス加工等を、被告がラジオ部品製造等をそれぞれ業とする商人であること、被告が昭和三十二年六月二十九日、原告に対してコアーツナギ十万本を単価金五円五十銭で注文し、同年七月六日千本以上、同月十五日五千本以上、同月三十一日二万本以上を納入し、残余は同年八月中に完納する約(以下第一次契約という)であつたこと、ところが、原告は、被告に対して同年七月十一日三百八本、同月二十八日五百十一本、同月三十一日九百本、同年八月二日五百五十本、同月六日八百本、同月九日千六百本、同月十二日千七百本、同月十五日八百本、同月二十日四万千七百二十五本、同月二十二日一万五千本、同月二十五日二万六百八十五本、同月二十九日一万五千四百三十一本、計十万十本の角型コアーツナギを納入したことは当事者間に争がない。

二、第二次契約の成立及びこれと第一次契約との関係

昭和三十二年十月九日、原被告間に、弁護士佐藤成雄を立会人として、次のような契約(以下第二次契約という)が締結されたこと、

(一)  原告は、昭和三十二年七月十一日から同年八月二十九日までの間に被告に納入したコアーツナギ十万本を一たん返品を受け、不良品の修理を行うこと

(二)  原告は、右品を昭和三十二年十一月十日までに再納入すること

(三)  被告は、再納入に係る品を同年十一月二十日までに検品し合格した場合には、同年十二月五日に満期昭和三十三年十月末日、金額四十万円の約束手形で原告に支払うこと

そうして、右契約に基き、その頃、被告がその保管に係る前記物件を原告に返還したことは当事者間に争がない。

ところで、被告は、第一次契約は昭和三十二年八月二十日頃解除され、第二次契約は第一次契約とは全く別個の契約である旨主張し、原告は、第二次契約は第一次契約の履行の中間修正に過ぎない旨主張するので、この点について判断する。成立について争のない乙第一号証の二、証人新井富治郎、同佐藤鶴次郎の各証言並びに原告代表者北村直吉、被告代表者大橋環各本人尋問の結果によれば、第一次契約は、原告が自己の材料を用い、被告の設計に基いて角型コアーツナギを製作してこれを被告に供給する旨の契約であることが認められ、製作物供給契約などと称せられるものということができる。そうして、第二次契約は、原告が第一次契約に基いて被告に納入したコアーツナギの不良品の修理とその再納入の期限、再納入品の検査並びに代金及びその支払方法を定めているに過ぎず、しかも第二次契約に際して被告が新たな設計をしたわけでもない。したがつて、第二次契約は、第一次契約によつて発生した目的物のかしの修補に関する定めをするとともに、第一次契約において定められた代金とその支払時期を変更し、併せてその決済手段を定めたものであつて、第一次契約の従たる契約と解するのが相当である。よつて、第二次契約が設立するに至つた経緯がどのようなものであれ、それは第一次契約の効力を前提とするものであり、たとえ、被告の主張するように第一次契約が一たん解除されたとしても、第一次契約は、第二次契約によつて(これによつて変更されない限度において)復活させられたものといわなければならない。

三、再納入と再度のかし修補要求

原告が第二次契約に基き、昭和三十二年十一月五日、コアーツナギ三万百二十五本を被告に納入したことは当事者間に争がなく、証人加藤好吉の証言によれば、同月九日、原告会社社員加藤好吉がさらにコアーツナギ七万二百本を納入したことを認めることができ、右認定に反する証人佐藤鶴次郎の証言は信用することができない。そうして、同月九日、被告から右加藤好吉に対して、原告の納入に係るコアーツナギのうち六十本の抜取検査の結果として、カシメ不良一、曲り特に大なるもの六、曲り使用不能七、ハサミ方不足七、寸法大一、密着不良一、不良計二十三、不良率約四十パーセントなる旨通知し、不良品を修正の上同月十二日までに納品すべき旨伝えたことは当事者間に争がない。

四、三度目の納入と三度のかし修補要求

原告が被告に対して昭和三十二年十一月十二日コアーツナギ三万六百本、さらに同月十八日同六万六千百二十五本を納入し、同月二十日、被告から加藤好吉に対して、原告の納入に係る右物件中百本の抜取検査の結果として、カシメガタ三、カシメ曲り二十、密着不良二十六、不良計四十九、不良率四十九パーセントなる旨通知し、不良品を修正の上、同月二十五日正午までに納品すべき旨伝え、それまでに納入された物件全部を返却したことは当事者間に争がない。

五、四度目の納入と契約解除の効力

昭和三十二年十二月二日、原告が被告に対して加藤好吉の添書をつけてコアーツナギ十万二千百二十五本を送付したことは当事者間に争がない。

被告は、原告から右物件の送付を受けるや直ちにこれを検査したところ、依然として四、に記載と同様の結果であつて、しかも、約束の納期より遅れていたので直ちに原告に対して契約を解除した旨主張するが、被告から原告に対して契約解除の通知を発した事実を認めるに足る証拠はない。もつとも、本件記録によれば被告訴訟代理人は、昭和三十三年九月十八日の第一回口頭弁論期日において答弁書に基いて右主張をしているので、この時においいて原告訴訟代理人に対して契約解除の意思表示をしたものと解するのが相当であるから、この解除の効力について判断する。まず本件のようないわゆる製作物供給契約にあつては、如何なる法規を適用すべきかの問題があるが、具体的事案によつて、或面においては請負に関する規定を適用し或面においては売買に関する規定を適用するということもあり得るものといわなければならない。本件契約にあたつては、コアーツナギの製作は被告の設計に基くものであるから、目的物にかしがあつて被告が契約を解除する場合においてそのかしが被告の指図によつて生じたものであるときは、請負に関する民法第六百三十六条が適用されるとともに、その他の面では、むしろ売買と同視すべく、特に被告が供給を受けた目的物のかしを理由に契約を解除する際の要件については、売買に関する民法第五百七十条、第五百六十六条、商法第五百二十六条の規定が適用されるものと解する。被告は、契約解除の理由の一つとして、コアーツナギの送付が期限後であることを挙げているが、本件契約において昭和三十二年十一月二十五日までに右物件の供給がなければ契約の目的を達することができないものとは考えられず、右の事実をもつて催告を要せずして契約を解除し得る理由とすることはできない。被告は、契約解除の他の理由として、送付されたコアーツナギにかしがあることを挙げているが、本件におけるように個々の目的物については直ちに発見することができるかしであつても、目的物が多量であるために、その全体については、直ちにそのかしを発見することができない場合にはそのかしは民法第五百七十条にいう隠れたるかしに該当し、商人間の売買たる本件においては、商法第五百二十六条の規定により、被告は六ケ月内にかしを発見し、かつ、直ちに原告に対してその通知をしなければ、そのかしを理由に契約を解除することはできない。被告はコアーツナギの送付を受けて直ちにこれを検査し、その結果を原告に通知した旨主張し、証人佐藤鶴次郎の証言及び被告代表者大橋環本人尋問の結果中には、右主張事実に副う部分があるが、右証拠は、証人加藤好吉の証言及び原告代表者北村直吉本人尋問の結果に照らし、たやすく信用することができず、他に右事実を認めるに足る証拠はない。そればかりでなく、成立について争のない甲第二号証、同新井富治郎の各証言並びに原告代表者北村直吉本人尋問の結果によれば、次のような事実を認めることができる。すなわち、原告は、第一次契約の締結に際し、被告の設計によれば、コアーツナギの頭にシヤツトを入れる部分の穴を二ミリの丸穴にしてカシメるのであるが、それでは、頭とシヤフトが廻つてしまうので穴を多角形にするとか、穴に切り込みをつけてカシメたらどうかと被告に進言した。これに対して、被告は、右物件には回転するような力はそんなにかからないから被告の設計どおりに製作して欲しいというので、原告は、被告の設計どおりにコアーツナギを製作した。ところが、昭和三十二年七月一五日にコアーツナギ二百本を納入したところ、被告は、カシメたところが動くということで、その受領を拒絶した。原告は、その後も、いろいろと工夫を重ねつつ試作的に少量ずつ納品を続け、同年八月中旬頃新しく改良したコアーツナギを被告方に提示したところ、これならよいから急いで残りを作つてくれとの返事であつた。そこで、原告は、始めて量産に入り、同年八月末に全数量の納品を了した。その後、昭和三十二年十月九日、同年十一月九日、同年同月二十日の再三にわたり不良品の修理を被告から要求された際にも、できる限りの努力をして修正に当つた。また、本件コアーツナギの製作は、全工程がプレス加工で、しかも一定の型でプレスされるものであり、品質は均等のものが製作されるべきはずのものである。以上の事実を認めることができ、右認定に反する証人佐藤鶴次郎の証言及び被告代表者大橋環本人尋問の結果は、右認定の資となつた前記諸証拠に対比して信用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。ところで、本件コアーツナギについて被告の要求するカシメの程度の基準が如何なるものであるか具体的に明らかではないが、右認定事実からすれば、被告が本件コアーツナギについて指摘した「不良」なるもの、つまり、かしは、被告の設計、つまり、被告の指図によつて生じたものであることを推認することができる。したがつて、いずれの点からしても、被告は、原告から昭和三十二年十二月二日送付されたコアーツナギのかしを理由に本件契約を解除することができないものといわなければならない。

六、検査に合格したとき始めて納入とするとの特約の意義及びその特約の有無

被告は、本件契約においては、被告において目的物の検査をなして合格したとき始めて完全なる商品の納入とするとの特約があつた旨主張するが、右特約の意義は、検査に合格したとき始めて目的物を受領したこととし、不合格のときは受領を拒絶することができるとの趣旨に解するのが相当である。しかしながら、原被告間に右のような特約がされたことを認めるに足る証拠はない。

七、本件コアーツナギの代金とその支払時期

以上述べたところにより、原告は、被告に対して昭和三十二年十二月二日コアーツナギ十万二千百二十五本を売渡したことになるのであるが、その代金は、成立について争のない乙第五号証によれば、第二次契約において単価四円と定められていることを認めることができる。原告は、昭和三十二年九月十一日、直ちに支払を受けることを条件に単価を四円に値下げしたが、被告がこれを履行しなかつたので右値下の取極は無効になつた旨主張するが、たとえ、右のような事実があつたとしても、第二次契約において単価四円と定められていることを左右することはできない。また、原告は、第二次契約は、履行されないまま自然消滅の形になつている旨主張するが、原告による昭和三十二年十一月九日及び同月九日のコアーツナギ再納入は、第二次契約に基くものであることはいうまでもなく、原告による昭和三十二年十一月十二日及び同月十八日の三度目のコアーツナギ納入は、右再納入に係る物件のかしを修補した上での改めての納入であり、その意味において第二次契約に基くものということができ、原告による昭和三十二年十二月二日の四度目のコアーツナギ納入についても同様である。したがつて、第二次契約中、コアーツナギの返品を受ける旨の定め、再納入期に関する定め及び代金支払時期に関する定め等は、或いは目的を達し、或いはその後の契約によつて変更されたと解すべきであるにしても、代金に関する定めまでも失効したものと解することはできない。すなわち、原告が被告に対して昭和三十二年十二月二日売渡したコアーツナギの代金合計は金四十万八千五百円である。さらに、原告代表者北村直吉本人尋問の結果により、第一次契約において代金は、毎月二十日締切の翌月五日払と定められたことを認めることができるのであつて、前記の代金についても、右定めにより、その支払時期は昭和三十二年一月五日であるといわなければならない。

八、結論

よつて、原告の本訴請求中被告に対して金四十万八千五百円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和三十三年一月六日から右完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当として認容し、その余の部分は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十二条本文、仮執行の宣言について同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井敬二郎)

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